「下駄箱って何ですか?」と言われた日
20年ほど前のこと。
「玄関の靴をしまいたくて」とおっしゃる若いお客様に、私は自然に「下駄箱ですね。こちらです」とご案内しました。すると、その方は少し戸惑ったようにこう返してきました。
「下駄箱……?」
その瞬間、「ああ、今はもう“下駄箱”という言葉が通じにくい時代になったのか」と驚いたのを覚えています。現代では「シューズボックス」や「シューズラック」といった言い方の方が一般的で、おしゃれな印象もありますね。
よく考えれば「下駄箱」という言葉の「下駄」自体、日常生活で履くことはほとんどなくなりました。昭和の初め頃までは当たり前だった下駄も、今では祭りか特別な行事くらいでしか目にしません。ですから、下駄を知らなければ「下駄箱」という言葉に違和感があっても不思議ではありません。

私たち世代にとっては、小学校の昇降口にあった「下駄箱」が最初の記憶でしょうか。人が集まる学校や集会所では、靴を脱いだままにしておくと散らかってしまうため、靴を収納するための「下駄箱」が必要になります。
一方、一般家庭では家族の人数分だけ収納できれば十分でした。昔は玄関の上がり框に靴を並べていたものですが、生活の洋風化とともに靴の種類が増え、収納家具としての下駄箱の存在感も高まりました。

現代は核家族化や少子化が進み、家族の人数は少なくなる一方で、一人が所有する靴の数は趣味や用途に応じて多様化しています。スニーカー、ブーツ、サンダル、冠婚葬祭用など、収納すべき靴は昔よりもずっと多くなっています。

最近の住宅では、玄関に作り付けのシューズ収納が設けられていることが多いですが、これらは家を建てた当時の家族構成やライフスタイルを前提として作られるため、時間とともに変わる「靴の量」や「暮らし方」には柔軟に対応しにくい面もあります。
その点、家具としての下駄箱なら、家族構成の変化や趣味の変遷にも柔軟に対応できます。ミニマリストからコレクターまで、自分の靴との付き合い方に合わせて買い替えたり、配置を変えたりできるのが大きな利点です。

また、土足で使う下駄箱はどうしても汚れやすく、長年使うと痛みも目立ちます。だからこそ、定期的に買い替えて気持ちよく使えるのも、家具ならではの良さではないでしょうか。

